ヒマワリ畑で捕まえて - 1/2

『来たる8月5日、貴殿の1番大切なものを頂戴すべく参上する。怪盗紳士』

8月4日、午後11時。
封筒から出てきたカードを見て明智は小さなため息をついた。
このところ仕事が立て込み警視庁に泊まり込んでいたため、自宅の郵便受けを開けるのも数日ぶりのことだった。
溜まった郵便物の中に真っ黒な封筒が紛れ込んでおり、封を開けると見覚えのあるカードが顔を出した。
カードに記載された予告日まで、あと一時間も残されてない。

予告状などという古風な手口を使うのも考えものだと明智は思った。
もし書き付けた日付けを過ぎてこの手紙が開封された場合、彼女(もしくは彼かもしれない)はどうするつもりだったのだろう。
もう一度ゆっくりと文面に目を通し、明智は深く息をつく。

頭の中に、ひとりの少年が浮かんでいた。
8月5日といえば、かの素人探偵金田一はじめの誕生日である。
いく先々で不幸な事件に巻き込まれては、その度に鮮やかな推理で真実を暴き出す少年の誕生日である。

事件の調書には関わった人間のプロフィールが付属する。
彼は明智が目を通した多くの調書に登場しており、したがって繰り返し見てきた少年の生年月日を明智は完全に記憶していた。

こうして明智は“1番大切なもの”という単語を見て最初に頭に浮かんだのがその少年であった理由を、文頭にある日付のせいにしようと試みた。
警視庁きってのエリート捜査官は就寝前であることを踏まえカフェインレスの紅茶を煎れる。
一度腰を据えて、落ち着いて考えるべきだと思ったのだ。
しかしながらインポートの銘品と謳われたソファに身を沈めても、はたまた場所を変え書斎から素晴らしい東京の夜景を見下ろしても、いくら考えたところで生意気な少年の顔以外に思い浮かぶものはなかった。
それで明智は仕方なしに、渋々スマホを手に取った。
発信音は5コール目で繋がった。

『もしもし』
少しだけねむたそうな舌足らずの声が聞こえてくる。
明智は時計を見上げ、親密でない相手に電話をかける時間としては非常識であったと今更ながら気が付いた。

「こんばんは、金田一くん」
『こんばんは、明智さん』
「お元気ですか」
『んー。元気だよ』

スピーカーから流れてきたのは小鍋でゆっくりあたためたミルクのような甘やかな声だった。
その声は仕事漬けで疲れ切っていた明智の身体に染み渡る。
明智は近頃どうしてか、ふとした時にこの少年の声を聞きたくなることが多々あった。

明智ははじめを起こしてしまったかもしれないと心の中で詫びつつ、続けて何か話をしていたいと思わずにいられなかった。
話題を探そうと珍しくまごつく。
カチリと時計の短針と長針が重なり合う音が部屋に響いた。
日付が変わったのだ。
明智はこれしかないと口を開いた。

「誕生日おめでとうございます、金田一くん」
『えー、なぁに、それ言うためにわざわざ電話?』
「いえ……本当は、本当は手が滑って発信してしまったんです。変な時間にすみませんでしたね」
『そうなんだ。明智さんでもそんなことがあるんだね』

はじめはは小さく笑った後でありがとうと素直な礼を口にした。
明智の鼓動が本人の意思と無関係に加速する。

「きみはもう夏休みに入っているのでしょう。どんな誕生日を過ごす予定なんです」
『サイアク、知ってて聞いてる?美雪は法事でいないしおれの両親も福引で当たったって言って、昨日から4泊5日の北海道周遊旅行中なんだ』
「待ってください。では、君は今、家にひとりきりなんですか」
『そうだよ。可哀想なはじめくんは、ひとりでお誕生日を迎えるんですぅ』

明智は急に寒気を覚えた。
てっきりはじめは両親と共にいるものと思い込んでいたからだ。
否、一般人であるはじめの両親がいたところで、警察を何度も煙に巻いた犯罪者に対して何の効果も見込めないかもしれない。
しかしかの大怪盗も親の見ている目の前ではそこまで非道なことをしないだろうという打算が明智にはあったのだ。

「今からそらに向かいますから、誰が来ても家にあげないでください。いいですね」
『え、ちょっとなに、いきなり』
「事情は会って話しますから」
明智は車の鍵を掴むと大慌てで部屋を飛び出した。

***

数十分後、明智は自宅の書斎で頭を抱えていた。
机の上にはモニターがふたつ光っている。
ひとつ目のモニターには、先ほどまで電話していた少年の顔が映っていた。

「誰が来ても出るなと言いましたよね」
『だから、明智さんが来るまで出なかったんだよ。で、明智さんが来たから出たんだけど』
「それが私に変装した怪盗紳士だった、と」

明智がはじめの家に着いた時、そこはすでにもぬけの空だった。
玄関先に貼られていた指示書き通りにマンションへ引き返し記載されたアドレスにアクセスすると、テレビ電話が繋がった。
画面越しに見るはじめに特に外傷が見当たらないことに、明智は取り敢えず胸を撫で下ろす。
しかし問題は、はじめの背景に映り込む部屋の内装がどう見ても健全なそれに見えないことだ。
広いベッドのすぐ向こうにガラス張りの浴室が見えている。

「どうしてヒョイヒョイ付いて行ったんです。そこがどんな場所か知らないわけではないでしょう」
『うるさいよ。明智さんこそ、怪盗紳士から予告状が来てたなら言ってくれればよかったのに』

はじめの指摘に明智は黙るしかない。
まさか本当に1番大切なものがはじめを指しているとは思わなかった上に、はじめが“盗まれる”とは全く想定していなかったのだ。

『はぁい刑事さん。ちゃんと予告状を読んでくれたみたいで安心したわ。これから名探偵のボウヤと楽しいひと時を過ごすの。さぁ名探偵くん、お姉さんと遊ぶ時間よ。なにがいいかしら……そうね、野球拳にしましょう。あなたそういうの好きそうよね』
『え、ええっ、ええー……お、お手柔らかにお願いしますよォ〜アハハハ』

明智は無自覚の内にギリギリと歯軋りする。
画面の中に写っているのは醍醐真紀の姿を借りた怪盗紳士だ。
刺繍の細かい、いかにも少年の情欲を刺激しそうなキャミソールを着ている。
繊細なレースの装飾が施された裾から覗くのは生白くスラリと伸びた素足だ。

いつか船の中で見かけ思わずスケッチブックを手にしたほど魅力的に見えた女性が、今や心底憎たらしく思われた。
本物の醍醐真紀には何も罪はないが、明智は本物の彼女にまでケチをつけたい気分だった。

『あたしの勝ちね、刑事さん』
モニターは醍醐真紀の美しい笑顔を最後にプツリと途切れた。
同時にセカンドディスプレイの動きが止まる。
明智のコンピューターが、ありとあらゆるデータからはじめたちのいるホテルと部屋の番号を照合し終えたのだ。
明智は車の鍵と警察手帳、そして念のための拳銃を手に取ると再び部屋を飛び出した。

ヒラヒラとした飾りがついた駐車場の入り口をくぐり、ナンバープレートを隠す独特の区画に車を停めながら明智はため息をつく。
今まで怪盗紳士は芸術品とそのモチーフを盗んできた。
今回の事件で芸術品がはじめであるならば、“モチーフ”は何だと言うのだろう。
生身の人間から奪えるもの、といえば。

明智はブルリと身を震わせた。
自分の思考が既に論理的でないことに気付いていた。
どうしてか、あの少年が関わると冷静でいられなくなることが多いのだ。
明智は苛立ちつつ完璧な技術を持ってコバルトブルーの車を駐車させた。
誰もいないカウンターのベルを押す。
受付のスタッフが奥から姿を現した。
警察手帳という名の印籠と、尋常でなく殺気立った明智の気配に店員は震えながら合鍵を手渡した。
明智は拳銃を握る手に力を込め、はじめのいるであろう部屋の扉を開いて息を呑んだ。
ベッドの上に、少年は座っていた。
黒いタンクトップを着ているがその上にオレンジ色の太いリボンが巻きつけられている。
サテンのリボンは関節を固め、はじめの自由が効かないよううまく巻き付けられていた。
右肩の上に、絵に描いたような蝶々結びが施されている。

「こ、こんばんは、明智さん」
「……こんばんは」

明智は部屋を見渡して安全を確認すると、はじめの座るベッドに駆け寄った。
何を想定しているのかホテルの室内温度はやたらと低い。
せめて少年の肩にブランケットをかけるなりしてから消え失せて欲しかったと明智は怪盗紳士への不快感をさらに募らせる。

「よくここが分かったね。来たことがあったとか?」
「そんなわけないでしょう。しかし、ずいぶん素敵な格好じゃないですか」
「恥ずかしいから早く解いてよ、お願い」

はじめは口先では軽口を叩きつつも、その大きな瞳にはたっぷり涙をたたえた。
初めて見るはじめの表情に明智の心は激しく揺れる。
明智は想定外に起きた心拍数の上昇を無視して平静を装った。

「彼女はどこへ?」
「おれを縛り上げるだけ縛り上げて、10分くらい前に出て行ったよ」

明智は華やかなリボンの飾り結びに手をかけた。
しゅるりと結び目が解ける瞬間を、はじめも明智も黙って見つめていた。

少しずつはじめの身体を縛り上げていたリボンが解かれていく。
抵抗をしたらしいはじめの身体には、蛇に巻き付かれたように赤い筋が浮かんでいる。

「痕になってしまっています」
明智ははじめの皮膚に指先で触れた。
寒さのせいでなくぶるりと身震いしたはじめは、伏せていた睫毛をおずおずと持ち上げる。
「あの……あけちさん、」

どこか遠くの部屋から情事に耽る女の喘ぎ声が聞こえる。
明智は気付くと剥き出しになったはじめの肩を掴んでいた。
「金田一くん」
明智は無意識のうちにはじめの肩を抱き、ゆっくりベッドシーツに押し付けようとした。

部屋をノックする音があった。
ホテルの管理人が様子を見に来たのだ。
明智ははじめの肩に自身のジャケットを掛けるとドアを開いた。
「あのぅ、何事だったのでしょうか」
「家出した少年を保護しただけですよ。大事ではありません、お気になさらず」
はじめを見せないようにさりげなく入り口を塞ぎながら、明智は財布を取り出す。
「支払いがまだですよね。ご迷惑をおかけしました」

駐車場へ向かう道中、明智もはじめも口を開かなかった。
明智ははじめを押し倒そうとした自分に少なからず動揺していた。
今まで生きてきて、性的な衝動に突き動かされた試しがなかった。
はじめの身体を這う赤い痕は、明智の何かを刺激した。
車に乗り込んだところで先に沈黙を破ったのは、はじめだった。

「明智さん、おれ、謝んなくちゃいけないことがあって」
「なんです」
「おれ……大切な物を盗まれちゃったんだ」

明智はシフトレバーを動かそうとした手を止める。
スッと肝を冷やした明智をよそに、はじめは何も付けていない腕を見せつけた。

「ほら、あんたに借りてた時計」
「……怪盗紳士はそんなものを」

明智ははじめに腕時計を貸したままにしていたことを思い出した。
先日、模試を受けに行く道中のはじめが事件に巻き込まれることがあった。
暴れた犯人がはじめの腕時計を壊したため、明智は急遽大替品として自分の時計を貸し与えたのだ。

「ごめんね、大切なものだったんでしょ」
「どうしてそう思うんです」
「ベルトはそんなに年季が入ってないのに、文字盤はずいぶん古そうな傷がいくつかあったから。何度もベルトを付け替えるくらい大切にしていた時計……もしかして、誰かの遺品とか」

確かに明智にとって、腕時計も大切なものの一つではあった。
しかし目の前の少年に比べたら失ったところで何一つ痛くない程度のものだ。
怪盗紳士の予告状は腕時計を標的としていたのだろうか。

考え込むように押し黙った明智を見て、はじめの瞳が不安げに揺れる。
明智はすぐに気付くと安心させるように笑ってみせた。
「確かに、父が遺したものです。思い入れはありますが代わりがきかないというわけでもない。悪いのは盗んでいった怪盗紳士ですし、もっと言うとあの時剣持くんが犯人をきちんと押さえていればきみの時計が壊れることはなかった。きみが気に病むことではないですよ」
「でも……」
「……きみもまた、次の模試までに新しいものが必要になりますね。明日……というか今日になりますが、一緒に見にいきましょうか。私も新しいものを買い求めようと思っていたところです。きみの予定は何もないのでしょう?私も非番なので、よければ」

明智はスラスラと言葉を並べながら自分が信じられない気持ちになった。
明日はここ数週間の疲れを回復するため雨が降ろうと槍が降ろうとベッドから出ないつもりであったのだ。
しかし目の前の少年の沈んだ表情を見ていると笑顔にしてあげたいという欲求が明智の中に湧いてくる。

「え、ええ?いいよ悪いし、」
「私からの誕生日プレゼントとして」
「ほんとうにいいの?……ありがとう」
眉尻を下げて笑ったはじめに、明智はドキリと大きく心臓を跳ねさせた。

明智の車は静かに金田一邸の前に停車した。
明智はハザードランプを点滅させたままふとした疑問を口にする。

「そういえば、どうしてもう眠るだけという時間に腕時計なんてしていたんです」
「……なんでもいいだろ」
「それに……きみもあのホテルが何を目的とする場所であるか分からなかったわけではないでしょう。なぜ私の姿をした彼女に、ノコノコ付いて行ったりしたんですか」

はじめはしばらく黙ったままだった。
一瞬だけ泣きそうな、しかし何か全てを諦めたような不思議な表情を浮かべ明智を見上げた。

「家ん中がしんとしてて、隣の美雪ん家も明かりが灯ってなくてさ。ちょっと寂しかったんだ。明智さんの時計をしたらちょっとは気がまぎれるかなって……。そしたら電話が鳴って、明智さんが12時きっかりにおめでとうって言ってくれたから、おれ、期待しちゃって。……も、もしかしたら、明智さんもおれとおんなじ気持ちなのかなって……」
はじめは小さく鼻をすする。
「ごめんね、明智さん、おれ、と……ホテル、とか、気持ち悪いよね、」
「金田一くん、」
「ごめん、ほんと、もう忘れるから、ゆるして」
はじめはポロポロと涙を溢す。
無防備に涙を流すはじめの姿を見て、明智はとても悲しい気持ちになった。
好きな人が泣いているのを見るのは辛い。

(……好きな人?)
明智の中でストンと府に落ちるものがあった。
難解な事件を解決する時のひらめきに似た感覚だった。
厚い霧が急に晴れていくかのように、唐突に理解した。
自分はこの少年のことが好きなのだ。

明智は助手席側へ身を乗り出した。
掴んだはじめの手首の細さに驚きつつ、そのまま幼い唇に自分のそれを重ね合わせた。

はじめは硬直した。
氷漬けにされたかのようにピシリと固まって、何をされているのか理解すると反射的にジタバタと身を捩って抵抗を始めた。
明智は力任せにはじめを押さえ込むとやわらかな唇をさらに深く追求する。
鈍い音をたててはじめの後頭部が窓ガラスにぶつかった。

「あ、あけちさ、」
「黙りなさい」

明智ははじめの後頭部を庇うように手を添え再び唇を重ね合わせた。
明智の中で、この少年を好きだという気持ちが竜巻のように暴れ回っていた。
耳朶に触れ、ひと回り小さな身体にのしかかるようにして奪い尽くす。
若く柔らかな口内を味わい尽くすように懐柔する。
薄っぺらい少年の舌に己のそれを絡ませ、唾液を混ぜ合わせたかと思うと全てはじめに飲み込ませた。
はじめが酸欠によって咳き込み出すまで明智は少年の唇を貪った。
荒い呼吸が2人分車内に響き渡る。

「なに、今の、せめてもの、お慰みってヤツ?」
慣れてる男は違うねと、はじめは少しだけ腫れた唇を擦りながら嫌悪感を露わにする。
明智はようやく自分の気持ちを口にしていなかったことに気がついた。

「金田一くん、私もきみのことが好きです」
「いいよ無理しなくて」
「本当に好きなんです」
「別にいいったら」
「……きみに見せたいものがあります」

明智ははじめを座面に押し付けるとシートベルトを無理矢理つけ直し、車を発進させた。

はじめを伴って帰宅した明智はソファに少年を腰掛けさせる。
なにが起きているのかついて行けていないはじめは、もはや抵抗することもなく明智になされるがままだ。

「私がきみに電話をかけた理由はこれです」
明智は小さな予告状のカードをはじめに見せた。
「考えたんです、1番大切なものを。私の明晰な頭脳でいくら考えても、なぜかきみの顔しか浮かびませんでした。だからきみに電話をかけた」
「……明智さん、」
「どうしてきみの顔しが浮かばなかったのか、やっと合点がいきました。私はずっと、きみのことが好きだったのです。私が世界で一番大切だと思うのはきみしかいない」
自分で言いながら明智は完全にすっきりとした気分になっていた。
つい数時間前まで少年へ抱く感情の正体を掴みあぐねていた自分が馬鹿らしい。

答えは単純だったのだ。
自分は目の前の少年を好いている。
あらゆる意味で好いているのだ。
優しく真綿で包み込みたくなるような愛情も、頼りないタンクトップの下を暴きたくなるような劣情も、全て目の前の少年に向いている。

「……ほんとうに?」
「ええ、本当です」
「本当の本当?」
「ええ。私たちは想い合っていたんですよ。気付いてあげられず申し訳なかった」

はじめはしばし固まった後で、耳から煙を出してクッションに倒れ込んだ。
明智が揺すっても顔を上げようとしない。
仕方なくシャワーを浴びてくると伝えた明智に、もっと話がしたいから待っているとはじめはクッションに顔を押し付けたまま答えた。

明智がシャワーから上がるとはじめはソファの上で寝息を立てていた。
明智は満面の笑みを浮かべながら慎重にはじめを抱え上げ、寝室まで移動する。
ブランケットを被せ、頬に触れる。少年の頬はやわらかくまだどこかあどけない。

「おやすみなさい、金田一くん」
明智ははじめの頬にキスをしてその隣に寝そべった。
愛おしい存在を腕の中に閉じ込めるとそのまま目を閉じて深い眠りについた。

***

翌朝、明智の腕の中で目覚めたはじめはパニックを起こした。
明智はあくせくするはじめを寝ぼけなまこで見つめながら“誕生日おめでとうございます”と微笑んだ。
そのままはじめの唇にキスをする。

昨夜の出来事を思い出したはじめは真っ赤に染まって布団の中で縮こまる。
数十秒が経過した後、はじめが籠城した布団の山からありがとうと蚊の鳴くような返事があった。

「金田一くん、もっとキスがしたいです。ダメですか?」
バクハツ寝癖の男は怪力で布団の中からはじめを掘り出した。
返事を待つこともなく幼い唇に自分のそれを重ね合わせる。
チュ、チュ、と小さなリップ音が寝室に響き渡る。

「好きですはじめくん。私は今、すごく幸せな気分です」
「や、やめろ、アンタちょっと、」
「思えば私はずっと前からきみにこうしたいと思っていたような気がします。大好きですよ、金田一くん」
「うそつけ、つい昨日自分の気持ちに気付きましたみたいなカオしてたくせに!」

身体をまさぐろうとする大きな手からなんとか逃れ、はじめはシャワー室に駆け込んだ。
交際初日、はじめは明智が想像以上に手が早く大変なキス魔であることを思い知った。

はじめと交代でシャワーを浴びながら、明智は最高にハイになっていた。
好きだと気付いてしまえば突然世界が変わって見えた。
思えば出会った時から自分ははじめを好いていた気がする。
このところすぐに彼の声が聞きたくなって、会うと目が離せなくて、朝が来るたびに彼のことを考えていたのは彼を好いていたからだったのだ。