かわいい

深夜零時を回って帰宅すると、リビングのソファに黒猫が鎮座していた。大きなモコモコの猫耳、身体のラインを何ひとつカバーしない黒いピッタリとしたTシャツ、そして色んなものが見えてしまわないか不安になるほど短いショートパンツ。衣類は上下ともに黒く、半袖の裾とショートパンツの縁にはモコモコとした黒い毛があしらわれている。

「金田一くん、どうしたんです」
明智は瞠目した。今日はなんの日か考えるが見当もつかない。元より予想不可な行動でこちらを翻弄するのが得意な子だ。

「今日も遅かったにゃー」
猫はふふんと鼻を鳴らし、ソファの上で膝立ちするとふんぞり返った。剥き出しの生っ白い大腿が眩しい。黒いショートパンツの裾と白い肌のコントラストに明智は軽いめまいを覚える。

「こんなに帰りが遅いご主人様にはお仕置きだにゃー」

猫は突然飛び掛かってきた。さすがに勢いをつけて飛ばれると、いくら明智といえどふらつくものだ。黒猫は明智をソファの上に押し付けると膝の上にまたがり、銀フレー ムのメガネを取り上げた。

「何事ですか」
明智はクスクス笑いながら猫の背に腕を回す。ぴったりしたTシャツは猫の体温をそのまま伝導して触り心地がよかった。薄い腹筋の溝を指先でなぞると猫はギャンと牙を剥く。

「お仕置きなんだからね、明智さんは触っちゃダメ」
「何も身に覚えがないのですが」
「なんだっていいだろ。あれだ、いい歳してかっこよすぎ罪、女に声かけられすぎ罪、 今週飲み会5連チャンでそろそろ寂しいです罪」

黒猫は明智の首筋に顔を埋める。首回りの匂いをフンフンと嗅いで、明智の首筋に歯を立てた。
「あーしあわせ」
猫は満足げに喉を鳴らすと、舌で明智のうなじを舐め上げる。
「汗臭いでしょう」
「んー、そうでもないし、どうでもいいよ」

すっかり猫語を忘れたハジメは明智の首回りに夢中だ。大きな身体にのしかかり、熱心に調査する。視力を奪われ、いつの間にかネクタイを解かれ、シャツも解放された明智は最早なされるがままだ。ハジメはひとしきりの探索を済ませると、満足げに微笑んだ。

「明智さんメガネ外したらちょっとかわいくなるよね」
「なんです、かわいいって」
「え、だってこうしたら何にも見えないんだろ」
「バカにしているんですか」

明智はムッとして形の良い眉毛を片方上げた。
「ひにゃっ!」
「きみのかわいい乳首はここですね。どうです、わりと見えているでしょう」
迷いない一手で明智はハジメの両乳首を摘んだ。急な刺激に、ハジメは猫耳のついた頭をびくっと小さく仰け反らせる。

「つ、つまむなぁ……っ」
「かわいいお尻はここですね。尻尾はどこに落としてきたんですか?」
「さわんな、揉むなぁ」
「猫語で言ったら聞いてあげます」
「……っ言うもんかよ」
「ああ、“明智さんもっとして”ということですね」

明智はハジメの上背を力任せに抱き込んだ。勢いよくぶつけられた唇同士から、程なくしてあまいキスが始まった。
「んっ…ふっ……やめろ、にゃ、」
「猫設定を思い出しました?かわいいだけですよ」

明智はニコニコと微笑みながらハジメの尻を指でなぞる。容易く裂けるショートパンツの生地に、双丘の谷からビリビリと裂け目が入る。
この衣装をどうしたのか、明智は一瞬聞こうか迷った。しかしすでにとろとろに融けつつあるハジメに、何を聞いても分かるまい。ハジメは明智のキスにふにゃふにゃの顔で応えた。寂しかったのはおそらく本当なのだ。明智は年下の恋人に申し訳なく思いつつせめてもの罪滅ぼしにと、ねっとり舌を絡ませた。明智に思う存分甘やかされたハジメは、荒い息を整えながら小さな声でささや いた。
「ね、ホントは尻尾もあるんだよ……ためしてみる?」